富山県観光振興条例(仮称)素案について

前 文

前文は、富山県の現状と課題、観光振興条例(仮称)を制定する基本的考え方を明らかにしたものです。

ふるさと富山は、世界に誇る自然と豊かな水に恵まれ、勤勉で積極進取の精神に富む県民性を培ってきた歴史の中で、地酒や郷土料理等の食文化、民謡や曳山祭り等の伝統文化、薬や工芸等の伝統産業等をはぐくんできた。そして、情報化や国際化が進展する中で、日本海側随一の工業集積を生かして環日本海地域の交流拠点として発展するとともに、高速交通体系の整備が着実に進みつつあるなど、ふるさと富山は、さまざまな魅力や未来への可能性にあふれている。
 一方、少子高齢化の進展等により人口が減少する今日において、県民が豊かさを実感できるまちづくりや交流人口の増加による地域活性化が求められており、世界的な観光旅行者の増加<参考1>にも対応した観光振興の重要性が高まるとともに、地域公共交通体系の充実、もてなしの心の醸成等本県を訪れる人々の受入れ態勢の充実が課題となっている。
 観光は、観光業にとどまらず、商工業、農林水産業等幅広い分野の地域経済へ波及効果<参考2>をもたらす総合的な産業であり、産業間の連携による地域の一体化や訪れる人々の評価を通じて、県民がふるさとの良さを再認識し、郷土への誇りと愛着をはぐくみ、次の世代に引き継いでいく契機となるとともに、新たな地域の魅力づくり、交流の活発化の原動力となるなど、県民生活全体に影響を及ぼす極めて裾野の広い営みである。
このような理解の下に、県民一人一人が、訪れる人々とともに、地域の暮らしの中から自然、景観、歴史、伝統、文化、産業等の地域の魅力を再発見し、より魅力あるものにするよう努めるとともに、その地域の魅力をそのまま世界に発信し、次の世代へ引き継いでいくことが重要である。そして、地域の魅力を生かして、地域が一体となって心のこもったサービスを提供することにより、誰もが一度は訪れてみたい、さらには、何度でも訪れたいと思うような個性と魅力にあふれる地域づくりをしていくことが重要である。
ここに、本県の観光振興についての基本的な考え方を明らかにすることにより、県民の観光に対する理解を深め、県民、事業者等、市町村、県が連携し、協力して、一体となって観光振興を図り、真の豊かさを実感できる元気とやまを創造するため、この条例を制定するものである。

富山県は、自然環境をはじめ豊かな地域資源に恵まれている割には、従来、観光に対する県民の意識は必ずしも高くありませんでした。 大交流時代を迎えて地球規模での人の交流が拡大する中、人口減少が進む本県において地域の活力を維持、発展させるには、観光振興により交流人口の増加を図ることが有効ですが、旅行先として「とやま」を選んでもらうためには、他と違う富山ならではの個性と魅力に磨きをかけ、PRすることが求められます。 そこで、県民一人一人が、ふるさと富山の魅力づくりに参画できる仕組みづくりを行い、一体となって地域の魅力を高め、世界に発信することによって、交流人口の拡大と地域の活性化を図り、元気とやまを創造していきたいと考えています。

<国の主な動き>

国は、観光立国の実現は21世紀の我が国経済社会の発展のために不可欠な国家的課題であるとして、制度や組織の強化を図っています。
2006年12月に観光立国推進基本法を制定(議員立法)。
2007年 6月に観光立国推進基本計画を策定(閣議決定)。
2008年10月から国土交通省に観光庁を新設。

<参考1>

国が2010年までに訪日外国人旅行者数を1000万人にする目標を掲げた「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を開始した2003年に521万人だった訪日外国人旅行者数が、2007年には835万人に急増(4年間で314万人の増加)しています。

<参考2>

国のデータによると、平成18年度の国内旅行消費額は23.5兆円で、これによる我が国経済への貢献度(経済効果)は、生産波及効果52.9兆円(産業連関表国内生産額の5.6%)、 付加価値誘発効果28.3兆円(名目GDPの5.6%)、雇用誘発効果442万人(総就業者数の6.9%)となっています。

1 目 的

この条例を制定する目的を定めます。
この条例は、観光振興について、基本理念を定め、県民、事業者等、市町村、県の役割を明らかにするとともに、観光振興に関する施策の基本となる事項を定めることにより、観光振興に関する施策を総合的かつ戦略的に推進し、もって豊かで活力に満ちた地域社会の実現と本県経済の発展に資することを目的とする

2 基本理念

本県の観光振興を進めるうえで基本となる考え方を基本理念として定めます。

(1) 観光振興は、県民一人一人が、訪れる人々とともに、地域の自然、景観、歴史、伝統、文化、産業等の魅力を再発見し、個性と魅力にあふれる地域の創造に努めることが重要であるという認識の下に行う。
県民一人一人が、地域の魅力を再発見し、地域に対する誇りと愛着を持って、観光客が訪れたくなるような個性と魅力にあふれる地域づくりに努めることが、観光振興の出発点であると考えます。
本県を訪れる人々は、地域の魅力を発見し、評価してくれます。

(2) 観光振興は、地域が一体となって地域の魅力を生かした良質なサービスの提供に努めることにより、訪れる人々の満足の度合を高めることが重要であるという認識の下に行う。
観光事業者や行政がいくら誘客に努めても、地域全体の受入れ意識が低ければ、訪れた人に感動を与えることはできません。地域が一体となって、訪れた人が「富山に来てよかった、また是非訪れたい」と思うような、心のこもった良質なサービスの提供に努めることが重要であると考えます。

(3) 観光振興は、地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重するとともに、地域の環境や良好な景観の保全、これらとの調和に配慮して、持続的に行う。

個性と魅力にあふれる地域づくりは、地域を一番よく知る住民が、将来の地域のあるべき姿を想い描きながら、より住みよい環境づくりに主体的に取り組むことを通じて、世代を越えて実現していくことが重要であると考えます。

3 県民、事業者や民間団体、市町村、県の役割

観光は、商工業、農林水産業等幅広い分野の地域経済へ波及効果をもたらす総合的な産業であり、事業者間、産業間の連携による地域の一体化や訪れる人々の評価などを通じて、県民がふるさと富山の魅力を再発見し、郷土への誇りと愛着をはぐくみ、次の世代に引き継いでいく契機となるとともに、新たな地域の魅力づくり、交流の活発化の原動力となるなど、県民生活全体に影響を及ぼす極めて裾野の広い営みです。
このような理解の下に、県民、事業者、民間団体、市町村、県が、適切な役割分担と相互の連携、協力の下に継続して観光振興に取り組むため、各主体の役割を定めます。

○県民の役割

(1) 県民は、基本理念について理解を深め、地域の魅力を再発見し、高め、発信し、次の世代に引き継ぐよう努める。
(2) 県民は、地域の観光振興に関する取組に積極的に参画するよう努めるとともに、訪れる人々を温かく迎えるよう努める。

○事業者や民間団体の役割

事業者や民間団体は、基本理念について理解を深め、事業活動その他の活動を通じて、観光振興に関する取組に参画し、協力し、連携するよう努める。

○市町村の役割

市町村は、基本理念にのっとり、県の施策と相まって、地域の特性に応じた観光振興に関する施策を推進するよう努める。

○県の役割

(1) 県は、基本理念にのっとり、観光振興に関する総合的な施策を策定し、実施する。
(2) 県は、観光振興に関する施策の策定や実施に当たっては、市町村と連携し、協力するよう努める。

4 観光振興に関する基本計画

観光振興を総合的かつ戦略的に推進するための基本計画の策定と、県民等の意見を反映させるための仕組みについて定めます。

(1) 知事は、観光振興を総合的かつ戦略的に推進するための基本となる計画を定める。
(2) 基本計画は、次に掲げる事項について定める。

  1. 観光振興に関する目標及び基本方針
  2. 観光振興に関する施策の基本となる事項
  3. 観光振興を推進するための体制の整備に関する事項
  4. その他観光振興を総合的かつ戦略的に推進するために必要な事項

(3) 知事は、基本計画を定めるに当たっては、あらかじめ、市町村、事業者、民間団体その他観光に関し識見を有する者の意見を聴くとともに、基本計画の案を公表し、広く県民の意見を求める。
(4) 知事は、基本計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表する。
(5) (3)(4)は、基本計画の変更について準用する。

誰もが訪れたくなるような真に魅力ある地域は、
地域が一体となって長い年月をかけながら粘り強く築いていく必要があります。
したがって、基本計画は、将来、地域がどうあるべきか、また、県全体としてどうあるべきか、50年先、100年先の姿を見据えた長期的視点に立ちつつ、おおむね3年ないし4年ごとに見直しながら戦略的に進めるアクションプランとして策定すべきものと考えます。

5 施策の推進に係る体制の整備

県民等が一体となって観光振興施策を推進するための体制の整備について定めます。

県は、基本計画に基づく施策を推進するため、市町村、県民、事業者、民間団体等と連携し、協力して、観光振興に関する施策を推進するための体制を整備する。

市町村等の行政区域や観光業界など既存の枠組にとらわれないオール富山県で連携、協力して、大交流時代にふさわしい観光振興に関する総合的かつ戦略的な基本計画を効果的に推進するための体制が必要と考えています。

6 県民等の参画の促進と支援

県民等の観光振興の取組への参画の促進と支援について定めます。

○県民等の参画の促進

県は、県民、事業者、民間団体の観光振興に対する理解が深まり、観光振興に関する取組への参画が促進されるよう、市町村、観光振興を目的とする民間団体等と協力して、観光振興に関する情報の提供、普及啓発、学習の支援、人材の育成その他必要な措置を講ずるよう努める。

地域の観光資源を生かした滞在型の観光を促進し、地域を訪れる人々との交流を盛んにするには、県民、事業者等、受け入れる側が地域のことをよく知ることが重要であり、学校等における「ふるさとを学ぶ」教育の充実、来訪者に対する「おもてなしの心」の醸成、観光ボランティアへの支援などが考えられます。

○県民、事業者等、市町村に対する支援等

(1) 県は、県民、事業者、民間団体が行う観光振興に関する活動について、
 その自主的な取組に配慮しつつ、市町村と連携して必要な支援を
 行うよう努める。
(2) 県は、市町村が基本計画に沿った観光振興に関する計画を定め、
 又はこれに基づき施策を実施するときは、観光振興に関する必要な助言
 その他の支援や協力を行うよう努める。

地域の魅力づくりの取組は、地域が一体となって取り組むことが重要です。
相互の利害抜きで地域がまとまるには、地域の環境や景観の保全に対する取組が比較的理解を得やすいため、近年、良好な環境、景観づくりをテーマにして地域が一体となった住みやすく魅力的なまちづくりの取組が活発になってきています。
こうした取組と結びついたグリーンツーリズムやエコツーリズムの取組への支援をはじめ、健康長寿をテーマとするヘルスツーリズムの取組への支援、芸術文化を通じた交流に対する支援、県内各地の特色ある産業を積極的に紹介する産業観光の取組への支援、環日本海地域の中核拠点としての拠点性を生かしたコンベンション誘致への支援、滞在型観光を積極的に推進する観光圏の整備への支援などが考えられます。

7 観光振興に関する基本的施策等

県が行う観光振興に関する基本的な施策等について定めます。

○近隣県等との連携

県は、県域を越える広域的な観光旅行者の需要に応えるため、近隣県等広域的な観光に関係する団体との連携を図る。

例えば、国内外の観光旅行者の広域観光ニーズに対応して、近隣県等と連携協力して取り組む観光ルートの開発や情報発信、宣伝活動などが考えられます。

○国際観光の推進

県は、環日本海地域をはじめとする東アジア地域、欧米地域等の観光旅行者の増加に対応して、積極的に国際観光を推進する。

例えば、ターゲットを明確にした海外向けの情報発信、広報宣伝活動、専門ガイド・通訳等の充実への支援などが考えられます。

○観光の基盤となる施設の整備等

県は、基本計画に基づき、観光の基盤となる交通施設、案内施設、交流施設その他の観光旅行者のための施設の整備や観光に関する情報の提供等に関し必要な施策を講ずるよう努める。
例えば、地域公共交通基盤の整備や交通アクセスの改善、主要拠点でのインフォメーションセンターの整備への支援などが考えられます。

○観光に関する事業者の経営基盤の強化等

(1) 県は、基本計画に基づき、観光に関する事業者の経営基盤の強化を図るため、相談支援体制の充実に関する施策その他の必要な施策を講ずるよう努める。
(2) 県は、(1)のほか、基本計画に基づき、観光振興を図るため、事業者間や産業間の有機的な連携を促進するとともに、新たな観光に関する事業の創出や育成のための相談支援体制の充実に関する施策その他の必要な施策を講ずるよう努める。

例えば、多様な観光ニーズに対応したサービス改善等の設備投資の取組には各種制度融資を活用した支援などが考えられます。また、地域資源を生かした県内観光サービス業の創業や富山ブランド商品づくりなどの新たな取組には、新産業・ベンチャー創出支援資金等による支援などが考えられます。

○観光に関する情報の収集等

知事は、観光振興に関する施策を効果的に推進するため、観光に関する情報の収集や統計の充実、観光動向の調査やその分析の実施に努める。

観光振興を戦略的に推進するための基礎になるものであり、先進地域に学ぶことはもとより、他地域との比較や観光旅行者の満足度を調査分析することなどにより、重点的かつ効果的な施策の実施が可能になります。

○施策の連携

知事は、観光振興を総合的かつ戦略的に推進するため、この条例に基づく施策と観光振興に関連する法令や他の県条例等に基づく施策との有機的な連携を図る。
観光振興に関連する主な法令や他の本県条例には、次のようなものがあります。

<主な観光振興に関連する法律>
  • 観光立国推進基本法   エコツーリズム推進法
  • 観光圏の整備による観光旅客の来訪及び滞在の促進に関する法律
  • 農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律
  • 外国人観光旅客の旅行の容易化等の促進による国際観光の振興に関する法律<主な観光振興に関連する県条例>
  • 都市との交流による農山漁村地域の活性化に関する条例
  • 富山県環境基本条例   富山県自然環境保全条例   富山県民文化条例
  • 富山県景観条例     富山県屋外広告物条例

○財政上の措置等

県は、観光振興に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努める。

○施策の実施状況の報告等

知事は、毎年、基本計画に基づく施策の実施状況を県議会に報告するとともに、公表する。